企業分析

【2021年6月更新】“エーザイ株式会社”参謀侍が見た製薬会社の動向と将来性

※この記事は2021年6月に更新しています。

皆さんこんにちは!読み解くシリーズ第5弾はヒューマン・ヘルスケアカンパニー「元気出していきましょう」でお馴染みの製薬会社、エーザイ株式会社です。

2021年6月8日は多くの認知症患者さんにとって、新たな希望が持てる大きなニュースが世界を駆け巡りました。

この先認知症治療のパラダイムシフトが起きるかもしれません。

そして、ここがターニングポイントとなりエーザイ株式会社は日本製薬企業のTOP3へと駆け上がる可能性を秘めています。

将来性は明るいものとなるか確認していきましょう。

 エーザイ株式会社基本情報

2020年度第3四半期 連結業績結果

売上収益 4,983億円(前年同期比+3%) 

営業利益 577億円(前年同期比-21%) 

当期利益 452億円(前年同期比-38%)

従業員数 10,712人(連結) 2,942人(単体)

平均年齢 45.2歳 平均年収 1,099万円

2020年度第3四半期は業界全体として厳しい経営環境にある中にも関わらず、前年同期比103%の増収となりました。

その主たる要因は主力製品である抗がん剤が堅調な伸びを示しているためといえます。

当面はこのレンビマを軸に安定的な成長が見込めるでしょう。

2020年度はエーザイが向こう10年間の命運を左右する重要なイベントがありました。

長年に渡り世界的な社会課題とされている認知症に対する、新たな薬剤が誕生する可能性が高まってきました。

過去10年間この領域では世界の名だたる大手製薬企業が新たなアプローチによる新薬開発に多大な金額をつぎ込んできました。

しかしながら、それら全ての企業にとって出口の見えないトンネルをさまようことになりました。

有望とされていた候補化合物が、次々と有効性が示せず開発中止に追い込まれてしまいました。

その中でもエーザイには希望の光が差し込みつつあります。バイオジェンとの共同開発を行った認知症治療剤が現在、米国、欧州、日本の地域で申請を行うまでたどり着くことができました。

まだ確実なことはいえません。しかし、認知症では数多くの人々から新しい治療が強く求められています。2021年度中には新たな風を吹かすことができるかもしれません。

そして、承認審査結果がエーザイの将来を決定づけることはいうまでもありません。

エーザイってどんな製薬会社?

現内藤社長の祖父が創業し、スタートしました。1988年に現社長が就任し、30年に渡って舵を取っています。

従来から神経・消火器領域を強みとしており、中期経営計画2025では神経・がん領域を戦略的重要領域に位置付けています。

事業エリアは日本・北米・中国・欧州・アジアに展開。60%超の売上を海外で稼いでいます。

特徴はなに?

世界で初めての認知症治療薬を開発したパイオニアであり、日本を代表する製薬会社です。それまではなす術のなかった認知症治療で、進行を遅らせることが可能となりました。世界の主要国で高齢化を迎える中社会問題ともなっていたこともあり、グローバルで大きな売上を上げてきました。ピーク時には3228億円に上ります。

現在も同領域で9本以上の開発を進めています。革新的薬剤が誕生することが期待されます。

また近年では認知症の早期発見を支援するアプリをオーストラリア企業と開発し、提供を開始しました。

EWAY FUTURE&BEYOND

ヘルスケア産業もデジタル化をはじめとするの技術の進展により、構造変化が起きつつあります。

エーザイとしてもその事実を受け入れ受け入れ事業の視点を転換することを発表しました。

これまでのエーザイの理念にエコシステムの概念を加え、hhceco(hhc理念+ecosystem)へと進化を遂げていきます。

Eisai Universal Platformを幹に据えて、他産業や他団体との共生により多様な憂慮を世の中から取り除いていくことを目指しています。

The People, 人によりスポットを当てエーザイと共に社会を作り上げていくそのような世界観を創ろうとしていると理解ができます。

この先どのような企業とコラボレーションしどんなソリューションを生み出していくのか、製薬企業の新しい形が見える日が近いかもしれません。

出所:2021 インフォメーション ミーティング (eisai.co.jp)

認知症治療薬の新たな夜明け

2021年6月8日、エーザイ株式会社とバイオジェンよりFDA(米国食品医薬品局)へ承認申請をしていた新規アルツハイマー型認知症治療剤が承認を得ました。

発売後の臨床試験が必要とされる条件付きでの承認ではありますが、約10年間数多くの候補化合物が開発を断念せざるを得なかった中で唯一の希望の光が差したことは紛れもない事実といえるでしょう。

エーザイでは他にも第三相臨床試験に進んでいる化合物もあり、その結果次第では向こう10年間を一気に駆け上る可能性を秘めています。

今回の承認を受けて、複数の大手証券会社が目標株価を大幅に引き上げています。

一時8,000円を目標とされていた株価ですが、そこから18,000-20,000円の水準を目指すとされています。

このことからも大幅な成長が期待できそうです。

新規薬剤の全世界市場ピーク売上は1兆円を上回ると予測されています。

2社での共同販売となるため、全ての売上がエーザイに計上できるわけではありませんが、順当に推移すれば数年後には1兆円企業へと変貌することができるでしょう。

ただし、医療用医薬品ビジネスは発売したからといって全てが順当にいくとは限りません。

有効性・安全性は概ね証明されているとはいえ、あくまで条件付きでの承認です。

大きな期待ができるものの、実臨床下にて有効性が証明されなければ販売中止になるリスクを秘めています。

また安全性面でも初めての作用機序であるがゆえに、未知の副作用が起こる可能性を現時点では否定できません。

米国での薬剤コストが標準ケースで約610万円が掛かることも見逃せません。

近年の画期的新薬は患者さんにとって、頼みの綱となる反面で費用がかさみ医療費を圧迫させることが増えてきています。

恐らく、今後日本国内でも承認を取得すると考えられますが、どれほどの薬価が設定され、どれだけの方が新しい治療の恩恵を受けることができるのか。

企業の利益と、国民の利益の均衡点がどこにあるのか、引き続き注目していきます。

参謀侍の目

2010年以降に主力製品の特許切れが発生し2000億円超の減収に見舞われた。一時期エーザイは終わったとの声も聞こえてきたほどに厳しい状況下にあった。認知症治療薬依存度が極めて高く、その穴を埋める化合物が現れなかったためだ。

長年の低迷期には組織再編を行うなど、テコ入れを行い、ようやく2017年度以降に復調の兆しをみせている。そのけん引役は抗がん剤である。2018年度には1000億円を超えた。免疫チェックポイント阻害剤との併用も可能となり、さらなる大型製品化が期待できる。

企業文化としてはプロパー主義を貫いていたが、ここ数年では外からの血を入れ始めた。長きに渡る伝統と新たな風の融合によるシナジーを発揮できるか。

認知症治療開発では多くの企業が苦戦をしている。その中でも同社の執念はあらゆる面で推し量ることができる。その一つが早期発見ツールのアプリ開発だ。今や患者、家族にも認知症≒エーザイが連想されているのではないだろうか。患者との接点が持ちにくい特殊な業界ではあるが、それほどの影響力を発揮しているといえよう。

エーザイそのものといえるこの領域で、日本発のフロントランナーとして新たな治療を世界に届けて欲しい。将来をどのように切り開いていくのか、今後の動向も期待したい。

参謀侍の紹介

通信企業でIT営業に携わる。その後ヘルスケア業界にキャリアチェンジしMRを10年間経験。メンバーの育成やプロジェクトの運営などを行う。経営知識を生かしヘルスケア企業の分析や将来の動向を独自路線で読み解く。

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