企業分析

【2025年将来性予測】これからの製薬業界はどうなる?

先日のロリーマシロイの記事(武田薬品の退職金はおいくら?)やトリプルの記事(IMR(独立型MR)の可能性)もあったように、今製薬業界は大きなうねりの中に入っています。

元々この10年間で低分子化合物(主に経口薬)の開発が飽和状態となりつつあることから

バイオ医薬品*にシフトしつつありました。

※遺伝子組換え、細胞融合、細胞培養などのバイオテクノロジーを利用して開発製造されたタンパク質性医薬品、抗体医薬品のこと

それに伴い、多くの革新的な薬剤が世の中にでてきました。今まで治療の選択肢がなかった疾患も希望の光がみえてきたかと思います。

一方で企業経営の観点からみると、市場環境がより厳しいものとなってきました。

新薬の開発費には新薬を1剤上市するために2000億円もかかるといわれています。(2010年頃は1000億円)

さらには高額な薬剤への薬価引き下げの圧力の強まり、バイオベンチャーの台頭、追い打ちをかけるようにCOVID-19による医療機関の経営悪化も重なってきました。

医薬品市場の予測データ、製薬メーカーの動向を基に2025年の未来を予測します。

医薬品市場予測

2020年現在は世界3位の市場規模

かつては米国市場についで2位の市場規模を誇っていましたが、中国市場の成長と日本国内のジェネリック施策により2020年時点では世界第3位に位置しています。

世界的に高齢化はさらに進むことが予測されていますが、日本は先駆けて超高齢化社会を向かえることになります。

医療費全体としてはさらに増加することになりますが、医薬品は少し状況が異なります。

手厚い社会保障がある素晴らしい国ではありますが、このままでは財政が持ちません。

様々な政治的な背景を踏まえると、診療報酬にメスを入れるのには相当なパワーが必要になります。結果的に製薬業界から痛みを伴う形になっており、今後も10兆円規模の市場を維持していく見込みです。

2014年~19年で年平均マイナス0.2%と世界で唯一マイナス成長となっており、2020年~24年時点ではマイナス3~0%の年平均成長率が予測されています。

今回のコロナ影響は年間最大3030億円の売上高減少が製薬業界全体で予測されています。

また従来の市場予測値とのギャップが埋まるまで2~3年はかかる可能性があります。

第一四半期(2020年4-6期)の営業利益への影響をみると、武田薬品は資産売却もあり上昇、第一三共は軽微、一方でアステラス製薬は-350億円とされています。

企業全体的にみると通期での影響は現時点では軽微なものとなっています。

その要因は売上高こそ減少するものの、研究開発の遅れや販売促進費が減少するためです。

しかし、足元の実感値では病院に患者がまだコロナ前水準には戻ってきていません。この状況が続くようであれば、さらなる減収減益の可能性は潜んでいます。

単年度でみると元来企業体力のある業界ですので、経営活動の継続には大きな影響はないでしょう。

一方で、中長期的な目線で捉えると事業継続の在り方を再構築する方向となる可能性が高いといえます。

コロナショックにより、地政学リスクへの対応をより強く考慮した意思決定がすでになされており、それに伴い資源配分の優先順位付けも変わっていく可能性があります。

今回の武田のようにCovid-19の渦中にあっても、ドラスティック組織再編を行う企業が増えていくことも考えられます。既に、来年度以降に向けた意思決定はなされているでしょう。

従業員の立場としては、待ちの姿勢でいては、気づいたときには厳しい現実が待ち受けているかもしれません。

研究開発の未来予測

創薬の効率化にはベンチャーとの連携がもはや不可欠か

年間数千億円をかけている大企業がある一方で、百億円単位で革新的な医薬品を創薬している企業が存在しています。特に米国では創薬の半数がベンチャー発とされている中で、日本はそのほとんどが資金力のある大手企業が創薬にこぎつけてきました。

その結果何が起きているでしょうか?革新的な薬剤の多くは国外の企業が開発したものとなっています。

イノベーションを起こすためには、既存の枠組みから外れる必要があります。今やイノベーションの代名詞ともいえる、抗PD-1抗体製剤も、元をたどると大学院生が1992年に発見したことが始まりです。

伝統的な企業にも優秀な人材が多くいることは間違いありませんが、長らく築き上げられた、企業文化や組織の考え方がイノベーションを妨げている可能性も否定できません。 AIやテクノロジーの進化もあり、今後は全く異なったアプローチでの研究開発が加速していくことも予想されます。

営業組織の未来予測

最適な組織設計を模索

製薬メーカーの営業機能を担っているのはMRです。過去10年間で情報提供の在り方、ルールが大きく変わってきました。

まずは、接待の禁止(講演会等の役割を伴わない場合)から始まり、お中元・お歳暮の廃止、ついにはボールペンやカレンダーの配布も無くなりました。

唯一残っているのは、医薬品の説明会を行う際にお弁当を提供することでしょうか。

また講演会での医師の発表についても一定のルールを課すことになりました。

これらが意味するところは、医療関係者との透明性を高め、社会からの信頼を得ることが求められる時代になったといえます。

特に医療の一端を担う製薬業界には、他産業よりコンプライアンスが求められているのだと考えられます。

MRがどこに価値をだせるのか?どうすれば生き残れるか?

そうした話題が界隈では尽きないのではないでしょうか。

価値をだすためには「医師のニーズに合った提案ができる」ことや「他社製品のことを含めなんでも知っているMRになる」「患者中心の話ができる」といったことをよく聞くと思います。

それも一つあるかもしれません。確かに顧客が求めることにフィットさせていくことはどの仕事にもあてはまります。ただ先に書いたことはかれこれ10年以上前から言われていたことです。

外部環境がこれだけ変化している中でも、解決策は果てして同じなのでしょうか。

ここでは少し異なった視点を取り入れたいと思います。

MRは製薬企業側からすると主に営業・販売機能を持った職種です。一部安全性情報収集といった重要な機能も有していますが、基本的には営業機能としての役割が大きいといえます。

これは企業活動において通常保有すべき機能です。製薬業界は過去にプロパー(セールス)の添付行為等の問題があったため、薬剤の情報提供を行う職種としてMRが誕生しました。

しかし実態は、金銭取引には関与しなくなったものの、営業機能として動くことには変わりありません。

ここで製薬企業の営業機能を定義しましょう。

「製薬企業の営業機能は、医師・薬剤師・メディカルスタッフと当該医薬品の情報を繋げ価値を理解するより、適した患者へ届ける役割」といえます。

つまりその目標(企業からすると売上・製品価値の最大化)を達成させるために必要なツールともいえます。

そう考えると、MRというのもあくまで今までの時代に合わせた方法であっただけなので、この先異なる役割でその機能を果たせばよいわけです。

それがデジタルツールの使い手なのか、地域に根差して連携をする者なのか、企業も時代に合わせた最適な組織を模索しています。単純に活動に制限があっても、売上への影響は軽微だったので人員の削減をするということにはならないかもしれません。

最適解はまだありません。

個々人は、常に価値を高めておく努力が必要といえそうですね。

新たな波の発生が近い?

2021年8月下旬武田薬品工業が前年の大規模リストラに続き、新たな施策を打つとの噂が流れました。

日本企業らしからぬダイナミックな経営判断を行うようになったのは、元を辿ると2014年に同社初の外国人CEOを向かい入れてからです。

長年国内市場では圧倒的王者として君臨していた同社ですが、研究開発コストが年々増加する中でなかなかイノベーティブな製品を生み出せずにいました。

グローバルで戦える企業に変貌すべく経営陣を刷新し、今や経営陣の半数以上は外国籍の多様性のある企業に生まれ変わりました。

その甲斐あってか、近年ではシャイアー社の買収を成功させ、世界上位10社へと生まれ変わりました。

しかしながら、その歪みともいえる多額の借入金返済に直面しています。

順調に返済をしているようにも見えますが、資産の売却や経営の合理化を進めるなど、その裏には涙を流す社員もいたことが想像できます。

代表的な例が2020年に実施した「フューチャープログラム」いわゆる人員削減です。

一部噂では相当の退職金積み増しがあり、ベテラン社員にはむしろありがたかったという話もありますが、今回第2弾が始まる可能性があるようです。

世界的なリストラクチャリング(再構築)を行うことになることが考えられますが、こと日本に目を向けてみると足元で大きなイベントがありそうです。

長年国内部門をリードしてきた岩崎氏が退任をすることが明らかになりました。

いまや数少ない生え抜き社員の経営幹部でしたが、次期候補が外部の金融マンとの噂があります。

製薬業界とは異なる業界出身者が同社に入るとすると、よりドラスティックな判断が行われることが想像に難くありません。

湘南の研究開発部門が対象になるとの観測も流れています。営業組織も昨年から幾度も変更されました。顧客との繋がりを大事にしてきた伝統は薄れ、厳しい判断がなされる可能性があります。

これが新たな大波の発生点となる日もそう遠くないかもしれません。