企業分析

【2020年11月更新】参謀侍が見た製薬会社の動向と将来性 “第一三共株式会社”

※この記事は2020年11月6日に更新しています。

今回特集する第一三共株式会社です。

コロナ禍の中でも業績は堅調に進んでいるようです。今何が起きているのか?これからどうなるのか?みていきましょう。

 第一三共株式会社基本情報

2020年度第2四半期累計実績

売上収益 4,802億円(対前年6億円増) 

営業利益 585億円(対前年277億円減) 

当期利益 517億円(対前年128億円減)

従業員数 15,494人(連結) 5,515人(単体)

平均年齢 43.5歳 平均年収 1,097万円

売上収益は日本国内では105億円のマイナスとなった一方で、米国およびヨーロッパ市場でのプラス分が寄与し僅かにプラス成長となりました。

営業利益は277億円の減益となりましたが、研究開発費の増加、為替等の特殊要因が起因しています。

コロナ禍の影響も受けつつも一定の利益を確保し、将来に向けた投資も行っています。来年以降の新薬も期待できるでしょう。

2020年11月より21年3月にかけて1000億円の自己株式取得を決定しました。

株主還元率も増加する予定となっており、堅調さを伺えます。

当面は将来性を期待できるかもしれません。

第一三共ってどんな製薬会社?

2005年9月に旧第一製薬と旧三共の合併により誕生した製薬会社です。合併に際して本体は医療用医薬品に特化しています。

医薬品の他にワクチン事業、ジェネリック医薬品事業も展開しており、OTC部門(一般用医薬品)は第一三共ヘルスケアに集約しています。

現在は国内市場を主軸に海外売上の拡大を目指しています。第4次中期経営計画では、がん事業に着手し、2025年度の売上目標を5,000億円にするなど事業のトランスフォーメーションを推し進めています。

特徴はなに?

合併前の両社の歴史から循環器領域、整形領域に特に強みを持っています。スタチン製剤の先駆けとなる薬剤Aを開発しコレステロール血症治療にイノベーションを起こしました。ベテランMRさんには〇〇御殿が建ったという逸話を聞いたことがあるのではないでしょうか?

近年では抗凝固薬を同系統薬の中では後発で発売したものの、2019年度国内売上830億円(37.0%)のシェア1位となっています。薬のポテンシャルに加え企業力が結果に結びつけた要因だと考えられます。

2020年度も順調にシェアを伸ばしており、抗血小板薬ではPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)で次の手を打っています。

国内医薬+ワクチン売上高は5,335億円(売上比率54.3%)で海外売上3,246億円を大きく上回っています。

2008年にはインド後発品メーカーのランバクシーを買収しグローバル展開の加速を目論んだが、FDAからの指摘されていた品質問題を解決できず2014年に売却に至りました。

モダリティ分野では、細胞・遺伝子治療にフォーカスしており2020年3月にAxi-Celを申請しています。競合他社含めこの分野は将来的な成長分野だと予測されており、現時点では大きな収益化に至っていません。

2025年ビジョン

2016年度から2020年度を対象期間とした第四期中期経営計画を経て、第五期中期経営計画である「2025年ビジョン」が策定されました。

21年度から25年度にかけては、がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業になることを掲げています。

がん領域に尖った企業変貌を遂げることで持続的な成長につなげていきたいと考えています。

研究開発製品ラインナップをみても、がん領域にはかなり力を入れていることがわかります。

医薬品の研究開発は一朝一夕では成しえないため、過去からの積み重ねの結果、向こう5年間で一気にスペシャリティファーマへと移り変わることができる準備が整ったという段階でしょう。

また第一三共の存在意義として企業理念にもある「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」はSDGsの目標3である「すべての人に健康と福祉を」にもつながっています。

持続的成長を遂げるためにも、革新的医薬品の創出という製薬企業の使命を果たしていくことをパーパスとしています。

デジタルトランスフォーメーションとの向き合い方も、新たな技術を治療手段と組合せることで新たなモダリティ(治療手段、治療方法)を提供していく考えです。

参謀侍の目

国内での医療関係者からのプレゼンスは非常に高く、首尾よく手堅い経営を行っている印象が強い製薬会社である。ランバクシーの件では高い学習費用を支払うことになったが、安定的な国内基盤があったためマイナス影響を克服している。

合併直後は旧出身会社による対立もあったようだが、新しい血も多く入ったことでほぼ影響がなくなっている。研究開発力に競争力を有し、新規性の高い薬剤を創薬してきた。

医療現場での情報力・対応力という観点では高いケイパビリティを有していることも国内での成長を続ける要因となっている。

一方で、競合他社と比べると海外売上比率は低く、いかにグローバルマーケットで競争力を持つかがカギとなる。特に米国での新規抗がん剤を浸透させる為に、強力なグローバルネットワークをアストラゼネカ社との共同販促を行っており成長ドライバーとなり得る。

2021年度は売上高1兆円に僅かに届かない予測を発表しているが、上振れる可能性もあるのではないだろうか。パイプラインが豊富にあり、将来性のある製薬会社の一つといえる。

参謀侍の紹介

ヘルスケア業界にてMRを10年間経験。メンバーの育成やプロジェクトの運営などを行う。経営知識を生かしヘルスケア企業の分析や将来の動向を独自路線で読み解く。

前の記事:参謀侍が見た製薬会社の動向と将来性#6 “大塚ホールディングス”

次の記事:参謀侍が見た製薬会社の動向と将来性#8“田辺三菱製薬”