※この記事は2021年1月に更新しています
近年感染症領域で再び存在感を高めているのが塩野義製薬です。
終わりのみえないCOVID-19の渦中で感染症分野のリーダーとして救世主となるのでしょうか。
塩野義製薬の今、将来を見据えた展望、特集します。
目次
塩野義製薬株式会社:2020年度第二四半期結果
売上高 1,485億円(対前年-152億円)
営業利益 553億円(対前年-79億円)
当期利益 494億円(対前年-50億円)
従業員数 5,261人(連結) -人(単体)
平均年齢 41.7歳 平均年収 904万円
2020年度上半期は塩野義製薬にとって厳しい結果となりました。
製品別売上高をみると僅かに成長している製品もある一方で、全製品が計画に対して未達で終わっています。コロナ禍による、経営環境の悪化はありつつもカバーできる製品が少ないのは現状です。
また主力製品となりつつあった、抗インフルエンザ治療薬に逆風が吹いていることもあり下半期も引き続き難しい局面を迎えることになるでしょう。
インフルエンザ治療薬市場自体が2020-2021シーズンは、国民の日常的な感染症対策の成果もあり90%以上の縮小も予測されるところです。
塩野義製薬ってどんな製薬会社?
薬の街大阪市中央区道修町に本社を置く、老舗製薬会社の一角です。ロゴマークは、天秤で薬量を正確に計量するために用いられた分銅に由来しているそうです。
一時は国内TOP3に入るほど医療業界に大きな影響をもたらしていました。一時の低迷期を経て2010年以降新たな成長段階に入っています。
近年は他社との提携により積極的な海外展開も行っています。2014年以降は業績が好調なこともあり中期経営計画が “2年前倒し” で達成しています。2019年度国内売上は通期予想3441億円、ロイヤリティ収入が1642億円とされています。
海外への導出も積極的に進めており堅調なことから、ロイヤリティ収入が売上の約47%を占めています。
塩野義製薬の特徴はなに?
感染症領域に強みを持ち、疼痛・神経領域にも注力しています。2004年に現手代木社長が研究開発部門長に就任した後に大幅な事業戦略の見直しを行い、25の研究分野から「感染症」などの3分野に絞り込みました。
その後多くの製薬会社がROIの低い感染症領域の研究開発から手を引く中、継続した開発を行ってきました。
結果として14年間で7つの新薬開発に成功し、会社を支える製品に成長させています。世の中の常識を打ち破り、革新的な化合物を誕生させたことが “手代木マジック”たる所以ですね。
代表する薬剤としては抗HIV薬や抗インフルエンザ薬があります。現在製薬業界では独自のポジショニングを獲得しているといえるでしょう。また自社製品比率が高いことから営業利益率も39%と高収益体制を構築しています。
昨年テレビ東京の「カンブリア宮殿」にも取り上げられていました。
https://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/2019/0124/
手代木マジックをみたい方はテレ東ビジネスオンデマンドにて視聴が可能です。(有料)
塩野義製薬ではコロナ治療薬の開発も進めています。こちらはガイアの夜明けにて特集されています。(有料)
ワクチン・治療薬の最前線~独占取材!新型コロナ“制圧の闘い”~【ガイアの夜明け】|テレビ東京ビジネスオンデマンド【BOD】 (tv-tokyo.co.jp)
COVID-19関連開発アップデート
塩野義製薬では公的機関やアカデミアおよびパートナー企業と連携しCOVID-19の「治療薬」「ワクチン」「診断薬」の開発に目下取り組んでいます。
「治療薬」
塩野義製薬が社内のライブラリー(過去に開発された化合物の種が保存された固有の資産)からCOVID-19に対する有望な新薬候補を評価しています。
5つの有望化合物の中から最終的に1つに絞り込み、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター等と連携し非臨床試験へと進みました。
しかしながら、有効性には期待ができるものの、安全性に懸念が残るとのことから2020年度内臨床試験開始目標を見直すことになりました。
引き続き期待をしましょう。
「ワクチン」
国立感染症研究所、京都大学と共同開発で遺伝子組み換えタンパクワクチンを開発しています。2020年12月より国内第1/2相臨床試験を行っています。200例以上の日本人を対象とし、接種後1年間追跡されます。
「診断薬」
日本大学等とのライセンス契約に基づき、革新的核酸増幅法を用いた迅速診断の実用化を目指しています。現在は試薬の一部改良が必要と判断され、初期型の提供開始目標を繰り下げることになりました。
予防から診断、治療までをトータルで手掛けている国内企業は他にありません。
日本の底力を是非みせてほしいです!
参謀侍の目
塩野義製薬は文字通り「選択と集中」で成功している企業といえる。振り返れば正しい選択であったことは明白であるが、当時の塩野義社内、業界の常識からすると相当に異質な判断と受け止められただろう。
2000年代といえば、生活習慣病治療薬の最盛期で人も金も多く投入されていた。当たれば大きい、そのため市場へいかに早く開発し投入するかが最重要課題であった。
しかしながら、次第に市場環境は激化し一面どこをみてもレッドオーシャンとなっていた。当然メガファーマが資金・体力でも圧倒しており、一筋縄ではいかぬ状況であっただろう。
一定規模の企業では何かに特化しなければ生き残れない、そういったことは多くの人間が頭ではわかっている。だが、実行に移すのは困難だ。多くの反発もあり時には孤独になったことは想像に難くない。このような侍企業が次々とでてきて世界で活躍してほしいと思う。
今後も革新的な薬剤を開発し、また将来性のある会社だと示すことができるだろうか。
この正念場をどう乗り越えるのか今後の動向に注目していきたい。
参謀侍の紹介
通信企業でIT営業に携わる。その後ヘルスケア業界にキャリアチェンジしMRを10年間経験。メンバーの育成やプロジェクトの運営などを行う。経営知識を生かしヘルスケア企業の分析や将来の動向を独自路線で読み解く。
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