企業分析

MRの生産性からみた、製薬業界の変貌①

MRを取り巻く環境の変化

医薬品メーカーの実質的な営業機能を担っているのがMR(Medical Representative)です。

近年では業界内外からコンプライアンス遵守が求められ、決められたルールの下で、適切な情報提供活動を行うようになりました。

医師とのコミュニケーション方法は多様化しており、デジタルチャネルの大きなうねりが、ようやくこの伝統的な業界にも訪れつつあります。

この波が押し寄せてきたことで、製薬企業の人的リソースにも変化が起きています。

MR数を調整する代わりに、非営業部門(MA部等)に所属するMSL(Medical Science Liaison)やPSP(Patient Support Program)を提供する企業看護師も徐々に増えてきました。

他方、医薬品開発面では従来のマス向け低分子医薬品から、患者数の少ないがんや希少疾病をターゲットとすることがメインストリームとなりつつあります。

MRの数は年々減少していることは、業界に関わる皆さんには常識といえるでしょう。

一方でMRの生産性(一人あたり売上高)は年々向上しています。

次のデータから何がいえるのか、考えていきましょう。

MR1人当たり生産性上位の顔ぶれ

上位10社の顔ぶれは

製薬業界向け雑誌のミクスでは例年夏にMRの生産性を算出しており、今年もアップデートされました。

1位~10位をみると意外な企業が軒を連ねていることがわかります。

1位:KMバイオロジクス 1,016百万円(前年744百万円)MR36名

2位:参天製薬 390百万円(前年360百万円)MR400名

3位:エーザイ 317百万円(前年302百万円)MR731名
4位:中外製薬 308百万円(前年318百万円)MR1329名

5位:JCRファーマ 302百万円(前年-)MR77名

6位:あすか製薬 245百万円(前年193百万円)MR205名

7名:MSD 232百万円(前年234百万円)MR1500名

8位:田辺三菱製薬 218百万円(前年217百万円)MR1400名

9位:第一三共 213百万円(前年232百万円)MR2300名

10位:小野薬品 210百万円(192百万円)MR1008名

出典:Monthly ミクス2021年7月号

上位の少数精鋭企業はなぜ生産性が高いのか?

1位のKMバイオロジクスは前身が通称化血研であり、ワクチンの研究開発・販売を行っています。現在は明治ホールディングスの子会社として事業を行っています。

その他の顔触れをみても、上位にはMR数1000名未満の企業が5社いることがわかります。

当然のことながら売上規模に対し、少数精鋭で活動することで一人当たりの生産性は向上します。

KMバイオロジクスはワクチンの情報提供を、明治ファルマのMRも担っているため、自社で全国を網羅する人員数は必要ないことが考えられます。

2位の参天製薬は眼科領域専門メーカーであり、かつトップシェアを獲得し続けています。当然のことながら、単一の診療科へアプローチするため、MR数は現在の規模感で十分といえます。圧倒的シェアを得ていることで、長年業界トップクラスの生産性を誇っています。

3位のエーザイはこれまで10年間で様々な変化がありました、大型認知症薬の特許切れに際し、大規模なリストラを行いました。ピーク時には約1600名もいたMRですが、現在は半分以下まで縮小しています。さらに近年は製品戦略の移行により、がん領域が強化されています。その結果、中堅規模の人員数で高い売上を実現することができています。

4位のJCRファーマは希少疾病領域に強みを持つ企業です。対象患者数が少なく、全国でも処方可能な医師が限られるため100名未満でも十分カバーできています。

売上高こそ400億円規模の企業ですが、高い収益性を誇っています。

最後に6位のあすか製薬ですが、旧帝国臓器製薬とグレラン製薬が合併し2005年に誕生しています。両企業は武田薬品工業の関連会社であり婦人科領域に強みを持っています。武田薬品工業開発高血圧症治療薬のAG(オーソトライズドジェネリック)を保有しており、ジェネリック事業が生産性に寄与しています。

次回は引き続き大手企業へ着目していきます。