企業分析

【2021年1月:久光製薬】参謀侍がみた製薬会社の動向と将来性

シリーズ第16回目は久光製薬を特集します。

※このシリーズでは様々な医薬品メーカーの今と将来を探っていきます。

製薬企業の中でも久光製薬は一般消費者に広く知られている企業といえます。

湿布薬のCMを一度はみたことがありますよね?

最近は嵐の二宮さんが出演されていますね。

ドラッグストアで稼いでいるイメージが強いかと思いますが、医療用医薬品が売上の核となっています。

“貼るを、未来へ。”

独自の文化を探っていきます。


久光製薬概要

2021年度2月期 第三四半期

売上高 808億円(前年比-18.4%)

営業利益 81億円(前年比-55.9%)

従業員 2,745人(連結)1,569名(単体)

平均年齢  36.3歳

平均年収 推定654万円

※2021年2月期 第三四半期決算発表資料を参照


久光製薬は他の国内製薬企業同様に長い歴史を刻んできました。

起源は1847年(弘化4年)です。

本社が佐賀県鳥栖市と東京にあり、Jリーグのサガン鳥栖のオフィシャルスポンサーも担っています。

主力製品である「サロンパス」は1934年から発売されており、約90年間ものロングセラーとなっています。

久光製薬の代名詞でもあり屋台骨といえます。

同社を象徴することとして「貼る治療」による医療への貢献を目指し続けています。

それは独自の造語である「サロンパシィ=Salonpathy」という言葉にも込められています。

国内で貼付剤に関する技術力では右に出るものはいないでしょう。

アルツハイマー型認知症の治療薬では、発売当初は皮膚のかぶれなどに困るケースがあったようですが、製品の改良により大幅に改善されたようです。

また一昨年前に発売したパーキンソン病治療薬も久光製薬の技術力が生かされています。

様々な診療科で貼付剤メーカーと認知されていることは疑う余地がありません。

久光製薬の将来性はあるのか?

これまで消炎鎮痛剤市場ではモーラステープ®が席巻しており、医療用医薬品事業を軸に事業は安定していました。

先般、主力製品「モーラス®パップXR」の改良による承認事項一部変更申請がなされました。

これまでも同様に改良を繰り返すことで、製品価値を維持しロングセラー化してきました。

しかし、ここ数年間で外部環境が急激に悪化しており、売上が減少傾向にあります。

2016年に湿布薬を1処方あたり70枚を限度とすることになりました。

それまでは1回の通院で3カ月分(90枚以上)を処方することがしばしばみられたと聞きますが、この規制がかかったことにより数量に歯止めをかけられました。

規制の背景には残薬問題があります。何十枚と処方されたものの、実際には使いきることなく次回の通院時にまた新たに処方をしてもらうことが数えきれないほどあったわけです。

貼付剤に限らず残薬は社会的課題とされていますが、その筆頭としてやり玉にあげられたのでしょう。

そうした影響もあり、第6期中期経営計画では2021年度には一般用医薬品比率を30%から50%まで底上げすることを目指しています。

OTCそして海外市場における拡販が成長の軸となっています。

鳥の目虫の目

久光製薬は今苦境に立たされています。

前期比で2割の売上が減り、営業利益も大幅に減少しています。

たった数年前までは1500億円程の年間売上があったものの、今期は1270億円を見込んでいます。

コロナ禍の影響で患者の通院頻度が減り、長期処方が可能な経口薬に移ったことも主力製品の売上に大きなインパクトを与えています。

一般用医薬品のサロンパスも海外からの観光客の減少により、1~2割程度あったインバウンド需要も消失しました。

世界有数の貼付剤の技術力があり、それを武器に既存治療では救えなかった患者への講演を果たしています。

また活路を見出すためにアジア、米国にも進出をしています。

しかしながら、現時点ではマイナス分を補えるまでに成長するかは疑問が残ります。

伝統製品・確かな技術は生かしながらも、新たな活路を見出す必要があるでしょう。

日本は超高齢化社会を迎える中、多剤服用の問題が解決されていません。この問題点の原因の一つとして患者の嚥下機能、認知機能の低下が上げられます。

高齢者にとっては、一度に数多くの薬剤を経口摂取することは大変なことです。そこで、経皮吸収製剤の必要性がでてきます。

近年ではドラッグデリバリーシステムの考え方も広まりつつあり、認知症やパーキンソン病をはじめとする様々な疾患で経皮吸収型製剤が誕生してきました。

経皮薬物送達システム(TDDS)の市場は年々拡大しており、2018年時点では米国、日本で約2,800億円、次いでドイツが約400億円となっています。

アイルランドのリサーチ企業RESEARCH AND MARKETSのレポート*によると2027年に向けて年平均成長率4.7%になるとの予測がされています。

出所:https://www.prnewswire.com/news-releases/global-transdermal-drug-delivery-system-market-2020-to-2027—covid-19-impact-and-analysis-301146587.html

一方医薬品市場世界第2位の中国では参入障壁が高くあまり普及しておらず、今後の成長機会が眠っているといえます。

自社開発製品で市場の覇者になるか、もしくは他社への技術提供によりTDDS市場のデファクトスタンダードを狙うか、成長分野の市場を抑えている強みを遺憾なく発揮していただきたいと思います。