近年製薬企業ではMSLという職種が増加しています。
これまで営業活動を伴う情報提供はMRという職種がカバーしていました。
ではなぜMSLが誕生したのか?いつからMRでは不十分になったのか?
今一度MSLの役割と背景にある理由を探っていきましょう。
目次
MSLの定義を知る
2019年4月に日本製薬工業協会がMSL活動に関する「基本的考え方」を発表しています。
「第3 役割と業務」では以下の内容が記されています。
会員会社は社内基準または手順書を作成し、以下の事項に留意のうえ、MSL の役割と業務
を明確にする。
1. MSLの活動は、医療の質の向上と患者利益の最大化に寄与することを目的とする。
2. MSLは、担当する疾患領域における最新の科学知識に基づき、社外医科学専門家と同
じ科学者同士の立場で医学的・科学的情報の交換並びに意見交換を行う。
3. MSLは、社外医科学専門家の独立性を尊重しつつ、健全で良好な信頼関係の構築・維持に努める。
4. MSLは、MA 部門が作成した計画(メディカルプラン等)に則って活動する。
また「第5 営業活動からの独立」では
・営業組織から独立した組織に所属する
・MSL活動の独立が保たれる範囲で営業部門へ情報共有が可能
・活動評価は売上目標等の営業活動に関連する項目ではないこと
さらに「第6 情報提供の範囲」では
・情報提供は営業部門の影響を受けることなく独立した判断の下で行う
・自社医薬品の販売促進を意図した内容を含まない
と示されています。
これらをまとめると
①営業とは切り離された役割
②科学者として医療従事者と意見交換および情報提供を行う
③製薬企業に所属しながら医療の質向上、患者利益の最大化に貢献する
と定義できます。
言語だけだとイメージが掴みにくいので、製薬企業の企業活動軸でどの段階で関与するのかをみてみましょう。
MSLアンケート調査
MRは販売促進フェーズのみで医療従事者と関与しますが、MSLは開発段階・販売促進(適正使用の推進)・ライフサイクルマネジメントと幅広い領域で専門家と接点を持つことになります。
MSLは科学者とうたってはいる一方で、目安となる学位は学士以上で各社判断とされています。
欧米では博士課程相当の学位を要件としていますので、同じMSLとはいえ日本国内では本当の意味での役割が確立されていないことが伺えます。
2017年の製薬企業におけるMSLのアンケート調査からは、年々各社のMSL人材が増加していることが分かります。
213名の回答者の内198名が薬剤師となっています。アンケート時点では各社ともサイエンティストであること重視していたことが分かります。
主な業務としてはKOLマネジメントやそこから得た知見を自社へフィードバックする、患者のアンメットメディカルニーズを収集するなどが上位を占めています。
現状のMSLには、マネジメントに関してや社内他部署との連携に課題があるようです。
社内連携での課題を克服するためには「明確な役割と責任の定義付けをする」ことが一致した見解となっています。
各社手探り状態が続いているといえそうです。
参照元:製薬企業におけるメディカル・サイエンス・リエゾンの業務に関する調査-アンケート調査2017- Jpn. Drug Information., 20(3):156~172(2018)
参謀侍の視点
製薬企業の中で自社医薬品の情報提供を行う役割は、時代によって変化してきました。
元をたどるとプロパーと呼ばれる営業から、情報提供のみを行うMR、企業によっては学術担当者がMRの補助的な役割を果たしてきました。
近年では新たにMSLという職種が誕生し、営業とは離れた立ち位置で現場の医師達と関わりを持っています。
一度製薬企業の役割を整理します。
従来から今も変わっていないことは、製薬企業は必要とされる新たな医薬品を開発し、それを世の中に普及させることです。
そこで得た利益を基に次の新薬を開発するサイクルを回してきました。
基本的にはこの原理原則は不変であり続けると思います。
では何が変わったのか?外部環境の変化が製薬企業の活動に影響を与えています。
もう少し具体的にいうと、個人情報保護法や臨床研究法の施行、社会的なコンプライアンス遵守の機運の高まりなどがあります。
2010年代前半には某製薬メーカーの論文データ偽装問題もありました。
製薬企業の前線にいるMRと医療関係者の癒着を排除するためにも、リスク因子を可能な限り排除する動きがあります。
その結果として従来のMRの一部機能を代替する役割としてMSLが誕生したとも考えられます。
企業サイドとしては、社会的信頼を得ながらも自社事業継続をしなければなりません。
時代に合わせた組織作りをよりスピディーに行っていかなければ、生き残りは難しいかもしれません。
MSL自体の役割も今後変わっていくことが予想されます、ともすると全く新しい職種が誕生する可能性もあります。
今ある職種は、その時点で必要とされる一機能に過ぎません。ですので、製薬企業内で生き残っていくには時代を先読みし、自ら社内でチャレンジする志を持つ必要があるといえます。
参謀侍