民間さい帯血バンクのステムセル研究所が2021年6月25日にマザーズへ上場をしました。
ステムセル研究所創業以来事業は着実に成長し、足元の業績も順調に拡大しています。そうした中で上場した目的とは何か?事業の将来性はあるのか探っていきましょう。
目次
企業概要
社名:ステムセル研究所
コーポレートスローガン:あたらしい命に、あたらしい医療の選択肢を。
本社:東京都港区新橋5丁目22番10号 松岡田村町ビル
細胞処理センター:東京、横浜
細胞保管センター:横浜
設立:1999年8月
資本金:7億480万円
社員数:78名
代表取締役社長:清水 崇文
IPO:2021年6月25日(金)マザーズへ上場を果たす
さい帯血シェア:累計保管数98.8%,2019年度新規保管数99.9%
累計さい帯血保管数:58,469名(2021年3月31日時点)
ステムセル研究所はどのような事業を行っているのか?
【ステムセル研究所事業概要】
・細胞の受託管理及び輸送事業
・生体組織由来成分の抽出、精製、加工、保管、検査及び販売事業
・細胞を利用した新治療法の研究開発及び普及
・医薬品及び医療器具の研究開発、製造、卸及び販売事業
・医療用施設の運営及び管理事業
※ステムセル研究所HPより抜粋
1999年8月にさい帯血の分離・保管を行う細胞バンクを目的としたステムセル研究所が設立されました。
翌月には初めてのさい帯血を保管し、以後順調に拠点を増やしそれと共に検体の保管数も増加しています。
同社ではさい帯血の保管を希望する顧客(主に妊婦)との間で契約を結び、全国の協力病院にてさい帯血を回収します。
その後さい帯血に含まれる幹細胞の分離・抽出等を行い細胞保管センターにて超低温下で長期保存をしています。
さい帯血の保管事業には公的バンクとステムセル研究所のような民間バンクがあります。
公的バンクでは第三者への治療目的とし寄付をすることになりますが、民間バンクでは将来的な再生医療の発展することを想定し、もしものリスクに備えて契約者が有償で保管をしています。
出所:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ishoku/saitaiketsu.html)
さい帯血とは何か?
さい帯血とは母子を繋いでいるへその緒や胎盤の中にある血液を指します。
まだ未熟な細胞で様々な細胞へと分化が可能な幹細胞が含まれており、今の医療では治療が困難な中枢系・自己免疫疾患系への再生医療・細胞治療への利活用が期待されています。
安定した財務基盤
無借金経営
当社の財務状態は極めて良好といえます。
無借金経営を続けており、かつ現預金も約30億円を手元に置いています。
まだ売上規模が17億円程度であるのにも関わらず、それを遥かに上回る潤沢な資金があります。今回のIPOでは市場から30億円以上を調達することになり、将来へ向けた投資を積極的に行えるようになるでしょう。
高い収益性
※有価証券報告書より作成
上場企業の営業利益率平均が5%前後とされていますが、ステムセル研究所では過去4年間を振り返ってみると、21年3月期こそ6.2%ですが2018~2020年では10%を上回っています。
類似産業の製薬業界でも近年営業利益率10%を超える企業数が減少しつつある中で高い収益性を確保しているといえます。
ここで同社の収益モデルを振り返ります。
基本的な収益源は保管希望者からの初期費用及び年間保管料になります。
細胞採取を行うためのイニシャルコストが19万円でさらに保管料が年間5,000円となります。
そこから材料費、人件費、その他経費(採取を行う医療機関への技術料、外注委託費、検体の運搬費で一検体あたり30,000円)等の費用が発生しています。
お金の流れ自体は非常にシンプルであり、一括で得られるイニシャル収益と長期保管を前提としたストック収益のハイブリッドモデルとなっています。
毎年安定的に検体数が増加することを仮定すると収益の安定性は年々増していくことが想定されるでしょう。
今後の事業展望は明るいか?
まず結論を言うと、どれほどの疾患でさい帯血治療の有用性が科学的に証明されていくのかによって、さい帯血保管需要が変動することでしょう。
現時点では将来的に大幅な成長を遂げるのか、まだ確信を持つことはできないと考えます。
さい帯血による治療の主な対象疾患は白血病をはじめとする血液疾患です。
万が一重度の血液疾患に罹患した場合にはHLA型に合致した本人のさい帯血を利用できることは移植までの時間も短縮でき、拒絶反応もないためベストな選択になります。
さらに近年では脳障害の研究を中心に対象疾患が増えていくことが予想されています。
そのような背景から今後より注目されていく分野だといえます。
一方で、それらの疾患が発症する確率はどれほどのものでしょうか。
白血病の罹患率は人口10万人当たり12名程です。
さらに年代別割合では60歳以上が全体の7割を占めています。
仮に出生時にさい帯血を採取し、60歳まで保管し続けた場合総額約50万円の費用が掛かります。物価の変動次第ではさらに高額な費用を支払う可能性もでてくるでしょう。
また今から数十年後には医療も大幅に進歩し、今はまだ見ぬ治療方法が生まれてくる可能性も十分考えられます。
今はある程度家計にゆとりのある世帯で、保険的な意味合いとして保管していると推測されます。
出産を間近に控えているご夫婦はポジティブな側面、ネガティブな側面の両面をみて個人の価値観に基づいて判断すると良いことでしょう。
事業の成長性に話を戻すと、さい帯血事業単体ではまだ不確実性が残ります。
隣国である韓国の保管率は年間出生数の内16%と最も高く、積極的な臨床研究が行われている米国では2.9%となっていますが、我が国では0.9%と低く留まっています。まだまだ認知度も低くさい帯血保管は一般化されていません。
ただ、ステムセル研究所では2021年4月1日よりへその緒の保管サービスを開始し、今後も羊膜、羊水を用いた共同研究を日本大学や慶応義塾大学と行っており、その結果次第ではポートフォリオの拡充による長期的な事業拡大が見込めることになります。
海外展開も視野に入れていおり、アジアでの展望を含め引き続きウォッチしていきましょう。