戦後最大の景気後退、大手企業が大幅な減収、大手航空会社、大手旅行代理店では新卒採用が凍結、そしてボーナスカットと経済に大きな影響を受け続けているわけですが、医業(病院・クリニックなど)も同様に大きな打撃を受けています。
景気に左右されない業界として認知されており、リーマンショック時でさえ影響はほとんどなかったヘルスケア業界ですが経済的な観点から今何が起きているか、この先どのようなことが起きうるか考察をしていきます。
目次
病院経営の悪化から回復には時間を要するだろう
年初からのCOVID-19のパンデミックにより、経営状況が悪化しています。
4月から6月の医業収益のマイナス幅は以下の通りであり、緊急事態宣言のあった5月には2桁を上回る大幅な減収に見舞われました
対前年医業収益:4月(-9.4%)5月(-15.3%)6月(-4.7%)
またコロナ患者の受入れの有無別でみると、コロナ患者入院受入・受入準備病院ではより大きな影響を受けていることが分かります。
コロナ患者入院未受入病院:対前年医業収益:4月(-5.8%)5月(-11.4%)6月(-3.1%)
コロナ患者入院受入・受入準備病院:対前年医業収益:4月(-11.2%)5月(-17.4%)6月(-5.7%)
受入病院ではコロナ感染患者用に隔離された病床を確保するために、複数の病室の用途を変更し、かつ一部屋当たりのベッド数減少する必要があります。そのため物理的に入院患者数が減少することになる上、看護師のマンパワーも割かれることからその他一般病棟への入院制限も行われた結果未受入病院と比べ減収幅が大きかったといえます。
また患者サイドとしても、入院中のコロナ感染を恐れて自宅療養を選択する人が増えたことも起因していると考えられます。
収入別の影響
次に医業収益を入院診療収入、外来診療収入、検診・人間ドック等収入別の影響を見ていきます。
Ⅰ.入院診療収入
有効回答全病院:4月(-8.4%)5月(-13.8%)6月(-5.7%)
コロナ患者入院未受入病院:対前年入院診療収入:4月(-3.7%)5月(-8.3%)6月(-2.9%)
コロナ患者入院受入・受入準備病院:対前年医業収益:4月(-10.1%)5月(-15.9%)6月(-6.6%)
全ての期間を通じて未受入病院の方がマイナス幅の影響が低くなっていることがわかります。この理由は先に記載した通り、ベッドを通常稼働できていることや患者の回避心理への影響が少なかったことが原因だと考えられます。
Ⅱ.外来診療収入
有効回答全病院:4月(-10.0%)5月(-16.3%)6月(-0.1%)
コロナ患者入院未受入病院:対前年入院診療収入:4月(-10.0%)5月(-16.5%)6月(-0.8%)
コロナ患者入院受入・受入準備病院:対前年医業収益:4月(-10.0%)5月(-16.2%)6月(0.2%)
次に外来診療収入で未受入、受入共に同様の傾向がみられました。4月5月は政府の自粛要請もあり2桁のマイナスとなっていますが、6月には昨年と同様の水準にまで持ち直しました。外来受診を控えていた患者の通院再開もあり、平時に戻りつつあることが推察されます。
Ⅲ. 検診・人間ドック等収入
有効回答全病院:4月(-45.4%)5月(-63.1%)6月(-25.8%)
コロナ患者入院未受入病院:対前年入院診療収入:4月(-39.0%)5月(-58.4%)6月(-25.9%)
コロナ患者入院受入・受入準備病院:対前年医業収益:4月(-49.7%)5月(-66.1%)6月(-25.7%)
最後に検診・人間ドックをみると、致命的な減収となっています。これは多くの病院で一時的に受付を停止したことが主な原因となっています。しかし、徐々にではありますが、再開した病院も増えてきており年内の持ち直しが期待されるところです。
健診中断はコロナ感染の回避のための判断ではありすが、健診の遅れによる病気の発見が遅れるリスクも考える必要があるといえます。
http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20200806_01.pdf
データ参照ページ:一般社団法人 日本病院会 新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第1四半期)-結果報告-
■調査対象数:4,496病院 ■回答病院数:1,459病院 ■有効回答数:1,459病院
今後の動向
筆者の肌感覚では足元の2020年8月時点でもまだまだ従来の水準に戻っていないと感じます。クリニックでは特に耳鼻科や小児科にて半数以上の減収となった施設もあるようです。患者自身も心理的に抑制がかかり通院を控える、もしくは通院しても3カ月に1回といった具合に従来よりも長い間隔での通院を希望する方が増えているようです。
そうなると累計患者数の減少となり、経営的には打撃を受けることになります。
複数の医療関係者へ聞き取りを行っても、おおむね年内の回復は難しいとの意見で一致しています。来年以降にワクチンの接種が開始され、まずは医療関係者そして高齢者が優先されると思われます。その後治療薬の開発もあるとしても、早くとも従来の水準に戻るには再来年以降となるかもしれません。
ただし現状8割のコロナ患者受入病院が赤字に陥っています。このままでは地域の医療体制が崩れ、従事している医療関係者の努力が無駄の泡になってしまう恐れがあります。公的資金等の支援を充分に行い、この窮地を抜け出す必要があるのではないでしょうか。